昨日も東京大学TMIにゲストTAとして参加し、知的財産の権利活用に関する演習を行いました。新製品を商品化するにあたり、それぞれ製品必須の特許や差別化技術の特許を保有する、ライバル企業、研究開発型ベンチャー、部品専業メーカー、および大学と、どう組み、対抗するのかを検討するもので、クロスライセンスや買収、共同研究などの選択肢を組み合わせていくものです。前回同様、短時間のうちに、様々な選択肢を繰り出してくる発想力には舌を巻きました。
上記演習での権利活用では、事業規模の異なる2社間の知財権の価値は等価なものとして扱いましたが、事業規模の異なる2社間での強みを比較するときには、事業へのインパクトを考慮した相対的知財力で検討される必要があります。
昨日の演習でも、「事業をやっていない研究開発型ベンチャーの保有する特許が一番厄介だ」と発表していた学生さんがいましたが、まさしくそれは相対的知財力の観点です。
一般的に「知財力」というと、相対する2社それぞれの強み特許の件数で近似できます。ときには、特許の評価ランク付けがなされて重みづけが付加される場合もあります。当然、強み特許の件数が多いほど、知財力に勝るということになります。
一方、相対的知財力は、事業規模の差を考慮します。乱暴に近似するなら、強み特許の件数に事業規模の比率を係数として掛けあわせます。この場合、特許の件数が多いだけでなく、事業規模の小さい方が有利になります。さらには、事業を行っていない方が圧倒的有利になります。大企業にとって、事業を行わずに知財権の行使を行い、高額な実施料を要求してくるNPE(Non Practical Entity)がいかに厄介な存在であるかが理解できるはずです(くわしくは丸島先生の著書「知的財産戦略」126ページを参照してください)。
スタートアップ企業、中小企業は、知財力では潤沢な資金力のある大企業と比べるべくもありませんが、相対的知財力なら互角以上に勝負ができる可能性があります。重要なのは、事業が大きくなる前に相対的知財力で弱みを解消する方向に持っていくことです。
弱みを解消するための「攻めの権利形成」については、また別の機会に紹介したいと思います。
ちなみに、保有する知財権ゼロでは知財力で戦うことは適いません。事業で勝つためには、知財権ゼロの状態から1へ、そして1から2へと早期に移っていくことです。
次回は、米国でスマートフォン訴訟合戦を繰り広げているアップルとサムソンの相対的知財力を見てみたいと思います。