北海道を代表する土産菓子として知られる「白い恋人」を製造販売する石屋製菓(札幌市)は28日、吉本興業(大阪市)などが「面白い恋人」の名前で売り出した菓子が商標権を侵害しているなどとして、商標法と不正競争防止法に基づき販売の差し止めを求める訴えを札幌地裁に起こした。(出典:asahi.com)
前々から新大阪や新神戸の土産店で見かけるたびに「大丈夫かいな?」と思っていましたが、「面白い恋人」が提訴されてしまいました。この事件、商標権侵害、不正競争にフォーカスされる記事は多く出てくると思いますので、知財リスクマネジメントの観点で思うところを書きたいと思います。
まずは、両社の企業プロフィールと本事件に関するプレスリリースです。
原告:石屋製菓株式会社
創業1947年
資本金:3,100万円
事業内容:菓子製造業
売上高:94億3,300万円(連結ベース)
従業員数:379名・グループ合計563名
石屋製菓のプレスリリース
被告代表:吉本興業株式会社
創業1912年
資本金:125億450万円
事業内容:TV・ラジオ、ビデオ、CM、その他映像ソフトの企画、制作および販売。劇場運営。イベント事業。広告事業。不動産事業。ショウビジネス。その他商業施設の開発、運営。
売上高:非公開
従業員数:644名、所属タレント約800名
吉本興業のプレスリリース
石屋製菓にしてみれば、30年に亘って築き上げたブランドにただ乗りされたのですから、全力で阻止するのは当然でしょう。商標権侵害に加えて、パッケージが似ているということで不正競争でも差止請求する、知財ミックスの権利行使となっています。
気になるのは、よしもとクリエイティブ・エージェンシーの広報担当者が「突然の提訴なので驚いている。訴状を見て、適切に対応したい」とのコメントを出している点です。両社の話し合いがないままに石屋製菓は提訴に踏み切ったようです。
知財専門家の判断ならば、提訴して差止め請求するというのは、与えられた持ち札の中ではベストに近い選択でしょう。
しかし、相手は放送局各社を株主に持つ、海千山千のエンターテイメント企業です。企業イメージは死活問題のはずですから、警告書を送付するだけでも販売取り止めにできたのではないでしょうか。そして、差止めと損害賠償以上の事業発展のクリエイティブ・オプションも引き出せる可能性も考えられたのではないかと思います。
もっとも、当初から提携を視野に入れていて、米国企業ばりに、より有利な条件を引き出すために提訴したというのでしたら、白い恋人恐るべしです。
一方の吉本興業グループですが「恐る恐る近畿圏限定販売で文句が出なかったので、商圏を日本全国に広げたら訴えられた」というのでしたら、知財戦略として下策としか言いようがありません。
なぜなら、同社は、同社が保有する膨大な知的財産そのものが事業の源泉となっており、権利侵害を排除することで事業を守っているのですから、自社の権利と同様に他者の権利も尊重する姿勢がなければ、知的財産の保護はままなりません。
例えば、所属タレントのキャラクター商品を無許可で販売する相手に差止めを要求したとしても、「アンタと同じことやっただけやで」と返されてしまいます。そうなると法的措置に出ざるを得なくなり、コストも時間もかかってしまうのです。
知的財産権を拠り所として事業を強くしようとされている方は、他者の権利も自社同様に尊重しなければならないことを努々お忘れなく!
これから、訴訟と並行して両社の話し合いが持たれると思いますが、これを機会に両社が強固なグリップで、日本を元気にする新しいビジネスを創出してくれることを願っています。