今回は、なぜ私がここまで交渉準備マップ作成にのめりこむようになったのかを紹介したいと思います。
プロフィールにあるように、私はメーカーの特許部に配属されました。特許部業務の大きなウェイトを占めているのが、特許の出願・権利化業務ですが、この業務で非常に重要なのが、特許の権利範囲を定める書面である「特許請求の範囲」が、キチンと書かれているかをチェックする、プルーフリーディングや草案チェックと呼ばれる作業です。
数十行から、ときには数ページもわたって書かれた文書が、果たして意図した発明を正しく表しているかを確認するのに、字面だけを追っていたら、途端に眠くなってしまいます。マーカーペンは必携ですが、なかなか頭に入りにくい場合もあります。
そんなとき、先輩から教わったのが」手で読む」手法です。それは、特許請求の範囲の文書だけを読んで、ポンチ絵を描きます。そして、描き上げたポンチ絵と、チェックした特許に添付された図面や詳細な説明とを突き合わせて、違いがなければOK、そうでなければどこか修正が必要、と判断していくのです。
特許請求の範囲から描いたポンチ絵は、特許図面とは全く違うものだったり、ポンチ絵が描ける文章になっていなかったりと、私には大変面白かったのです。それ以来、目を通す特許は必ずといっていいほど、ペンを片手にポンチ絵を描くようになっていました。
習慣というのは恐ろしいもので、やがて、特許だけではなく、世の中にある長文を読むと勝手に手が動いてポンチ絵やマップを描くようになっていました。
おかげで、情報処理技術者試験や知的財産管理技能士検定で出題される事例問題では、事実関係を把握するのに役立ったというおまけ付きです。
ちなみに、弁理士試験でもポンチ絵を描いて考えていたのですが、それでは問題数に追い付かず、時間切れでした。
KIT(金沢工業大学大学院)で交渉学と出会い、模擬交渉ケースを検討するときにも、広告やカレンダーの裏にポンチ絵を描いていました。一度絵に描くと、文字で書かれていた内容がポンチ絵の状態で頭の中に入り、交渉途中で情報シートを見る必要がなくなるからでした。
田村先生、一色先生、隅田先生の著書「交渉学入門」(旧版)にも、交渉のプロたちが、交渉前にマップを見ながら作戦会議するくだりがあり、それなら、と提出レポートに交渉準備マップとしてポンチ絵も添付しました。すると、先生から「手描きのイラストが味があっていい」と好評価をいただいたのでした。
実際、マップを見ていると、相手への質問やクリエイティブオプションがそここことわき出て来るので、原則立脚型交渉には、この交渉準備マップはうってつけだったのです。
それ以来、調子に乗って交渉準備マップを描き続けるようになっているのです。