知財力と相対的知財力(1)

昨日も東京大学TMIにゲストTAとして参加し、知的財産の権利活用に関する演習を行いました。新製品を商品化するにあたり、それぞれ製品必須の特許や差別化技術の特許を保有する、ライバル企業、研究開発型ベンチャー、部品専業メーカー、および大学と、どう組み、対抗するのかを検討するもので、クロスライセンスや買収、共同研究などの選択肢を組み合わせていくものです。前回同様、短時間のうちに、様々な選択肢を繰り出してくる発想力には舌を巻きました。

上記演習での権利活用では、事業規模の異なる2社間の知財権の価値は等価なものとして扱いましたが、事業規模の異なる2社間での強みを比較するときには、事業へのインパクトを考慮した相対的知財力で検討される必要があります。
昨日の演習でも、「事業をやっていない研究開発型ベンチャーの保有する特許が一番厄介だ」と発表していた学生さんがいましたが、まさしくそれは相対的知財力の観点です。

一般的に「知財力」というと、相対する2社それぞれの強み特許の件数で近似できます。ときには、特許の評価ランク付けがなされて重みづけが付加される場合もあります。当然、強み特許の件数が多いほど、知財力に勝るということになります。
一方、相対的知財力は、事業規模の差を考慮します。乱暴に近似するなら、強み特許の件数に事業規模の比率を係数として掛けあわせます。この場合、特許の件数が多いだけでなく、事業規模の小さい方が有利になります。さらには、事業を行っていない方が圧倒的有利になります。大企業にとって、事業を行わずに知財権の行使を行い、高額な実施料を要求してくるNPE(Non Practical Entity)がいかに厄介な存在であるかが理解できるはずです(くわしくは丸島先生の著書「知的財産戦略」126ページを参照してください)。

スタートアップ企業、中小企業は、知財力では潤沢な資金力のある大企業と比べるべくもありませんが、相対的知財力なら互角以上に勝負ができる可能性があります。重要なのは、事業が大きくなる前に相対的知財力で弱みを解消する方向に持っていくことです。
弱みを解消するための「攻めの権利形成」については、また別の機会に紹介したいと思います。

ちなみに、保有する知財権ゼロでは知財力で戦うことは適いません。事業で勝つためには、知財権ゼロの状態から1へ、そして1から2へと早期に移っていくことです。
次回は、米国でスマートフォン訴訟合戦を繰り広げているアップルとサムソンの相対的知財力を見てみたいと思います。

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クリエイティブ・オプション

昨日は、慶應義塾大学ビジネススクール(KBS)の「経営法学」にゲストTAとして参加しました。今回は、漫画のドラマ化を巡って、出版社の編集長と放送局のプロデューサが交渉するというロールプレイをしながら、著作権法も習得するというものです。

演習ケースですから当然、両者の意向が相容れない「仕掛け」もあります。実際の交渉でも、しばしば見かける状態です。
こんなとき価格交渉のように「では間をとって」なんてできるならばいいですが、オール・オア・ナッシング、ウイン-ルーズのガチンコ構図になってしまうとお互い譲ることができません。また、持ち帰り検討にしても結局、「これ以外はダメ」なんてこともあります。

そんなとき、お互いの対立は何であるかを明らかにした状態で、クリエイティブ・オプション(創造的選択肢)を出していくという解決策があります。お互いのミッションを共有した上で、そのミッションを達成できるような代替案を交渉相手ともにブレインストーミングしていくのです。

今回の模擬交渉でも、ある受講生の方から「この対立はどうにかならないか?」と聞かれたので、クリエイティブ・オプションの考え方を伝えたら、ものの数分のうちに交渉相手との関係は良好になり、よい形での交渉成立が得られました。ほんの一言で、そこまでできてしまうのは、さすが日本最古のビジネススクールの塾生です。

以前に、他社から転職してきた開発畑の人に「実施料支払いの代わりに(侵害警告してきている)あの会社の余剰人員を受け入れるって交渉はどうだい。中には俺みたいなのがいるかもしれねえぞ。」と冗談とも本気ともつかぬことを言われたことがあります。本番の交渉でも、このようなクリエイティブ・オプションを発想できるようになりたいものです。

 

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Androidのコントリビュータライセンス

先日のサイバーシティ八王子10周年記念講演会の後、「アンドロイドで発展する八王子」はいいけど、ライセンスってどうなっているのかが気になっていたので確認しました。
以下は、個人用メモとして公開します。

Android Open Source Project(以下、アンドロイド)のライセンス情報は下記に掲載されています。

http://source.android.com/source/licenses.html

アンドロイドソフトウェアの大部分は、Apache Software License, 2.0 でライセンスされるとなっています。これは、アンドロイドも大元を辿れば、LINUXのオープンソースを使用しているからでしょう。

ライセンス契約書は、個人と企業の2種類ありますが、子会社を含むとか含まないとかを除いて、ライセンスの基本そのものは同じとなっています。
以下、企業向けライセンスの契約書(http://source.android.com/source/cla-corporate.html)を見ながら解説していきます。

Contributor(アンドロイドプロジェクトの参加者)はライセンス契約書に署名することで、アンドロイド製品に対する、プロジェクト参加者からの権利行使から保護されるとなっています。また、Contributorの保有する権利は、アンドロイド以外の目的に対しては効力が維持されることも示されています。

この契約書で「You」と表記されているのは、契約書に署名した会社のみならず、支配下にある関連会社も含むと定義されています。

「Contribution」は、その製作物がオリジナルだろうが改変だろうが、プログラムだろうが文書だろうが、プロジェクトの構成員から提供されたものは何でも含むと解釈しました。

まずは著作権の許諾。無期限、無償、ワールドワイド、非独占的です。

続いて特許権の許諾。全ての特許を無期限、無償、ワールドワイド、非独占的に許諾します。実施態様は限定列挙形式ですが何でも入りそうな勢い。Contributionに権利行使を行ったものに対しては、上記許諾を破棄できる互恵条項もあります。
この条項、アンドロイドが世界を席巻したら、競争を阻害する条項として独禁法がやばくなりそうです。

以下、付帯条項が続きますが、省略させていただきます。

この契約をざっくりとチャートにすると下記のようになります。
留意すべきは、アンドロイドでは呉越同舟となっているライバルに対し、アンドロイド外ならば特許権の行使は可能だという点です。
「どうせ無償で全件ライセンスだから」といって、製品化だけに没頭していてはいけません。アンドロイド外、あるいはアンドロイド後の事業で勝つためには、知財権の増強は欠かせないのです。

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交渉学の魅力

本日は金沢工業大学工学(KIT)虎ノ門大学院の交渉学要論にTAとして参加しました。受講生同士が模擬交渉をして、交渉学の基本を修得してもらおうというものです。かくいう私も、2年前は本学で受講生として学習していました。

本日の模擬交渉は、倒産したリゾート施設の売買をめぐって、破産管財人とエクイティファンドのマネージャとが交渉するというものでした。いくつかの対戦チームを見学して回るのですが、同じ設定なのに、全く異なる交渉が繰り広げられていきます。これは、講師だからこそ味わえる楽しみであり、学びの方法です。

そして模擬交渉終了後、相手の持っていた設定シナリオを見ながら、講師を交えて交渉を振り返るのですが、それはそれは反省の連続となります。今回は、交渉の全体像をマップ化してみないと、強いグリップの提携は適わない設定でした。そして、次の模擬交渉ケースに今回の反省点を取り入れて、よりハイレベルの交渉へと臨んでいきます。この反復繰り返しで身に付けていくことが重要です。

交渉学のロールプレイで受講生の皆さんにやってみてほしいことは、普段とは違った交渉スタイルで模擬交渉に臨んでみることです。情報や条件を小出しにしていくタイプの人は、ドバっと大判振る舞いするとか、あまりしゃべらない人は、マシンガントークで相手を威圧してみるとか、失うもののない模擬交渉だからこそできることをやってみることです。
すると、今までにない交渉スタイルのカードが1枚、きっと手に入ることと思います。

みなさんも交渉学はじめてみませんか。

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出版記念セミナーのお知らせ

当社の竹本が執筆協力した書籍が近日発売されます。

売り言葉は買うな!ビジネス交渉の必勝法

著者である一色正彦先生と高槻亮輔先生による出版記念セミナーが11月22日に新橋で行われます。竹本もTA(ティーチングアシスタント)として参加し、模擬交渉ロールプレイの実演も行います。

ビジネス交渉を成功させるための方法論(導入編)申込は締め切りました。

以下、新社会総合システム研究所の上記リンクから引用です。

セミナー要項
【開催日時】2011年11月22日(火)午後1時~午後5時
【会場】SSK セミナールーム
東京都港区西新橋2-6-2 友泉西新橋ビル4F
(03)5532-8850
【受講料】1名につき 31,500円(税込)(同一団体より複数ご参加の場合2人目以降 26,250円(税込))
【備考】書籍 「売り言葉は買うな!ビジネス交渉の必勝法」(日本経済新聞出版社 定価:1,470円)を席上頒布いたします。

【講師】
金沢工業大学大学院 客員教授
一色 正彦 (いっしき まさひこ)氏
(株)インスパイア 代表取締役社長
高槻 亮輔 (たかつき りょうすけ)氏

【重点講義内容】
ビジネス交渉は、弁護士や弁理士のような専門家や、部課長などの幹部職のような限られた対象者が行うと思っていないでしょうか。複数の当事者に対立や衝突のようなズレがあり、それを乗り越えようとするとすべて交渉になります。そう考えれば交渉を行わずビジネスする方が難しい位です。
それでは、実際の交渉事例に基づき研究した【交渉学】という学問があることをご存じでしょうか。本講座は、「売り言葉は買うな!~ビジネス交渉の必勝法~」(日本経済新聞出版社刊、2011年11月発売)の著者であり、交渉学の研究と実践を行っている2名の実務家講師により、ビジネス交渉を成功させる方法論(導入編)をご紹介
します。
その中で、効果的学習方法である模擬交渉について、TA(ティーチングアシスタント、交渉学を学び、実践するビジネスパースン)によるデモンストレーションと受講者に
よる体験交渉を行います。そして、交渉力や交渉リーダーの育成などを積極的に行っている先進企業の取り組み事例をご紹介します。
受講者の皆さんは、本講座を通じて、ビジネス交渉を成功させるために個人として、または、組織として、何をすれば良いかを学ぶことができます。

【パート1:ビジネス交渉を成功させるための交渉学とは?】
米国ハーバード大学交渉学研究所の研究に基づき東京大学・慶應義塾大学で日本人向けに開発された交渉力の育成プログラムと 大学教育での実践事例をご紹介します。

【パート2:模擬交渉のデモンストレーションと受講者の体験交渉!】
TA2名により、1対1の模擬交渉のデモンストレーションを行います。その上で、同じケースを用いて、受講者同士による1対1の体験交渉を行います。体験交渉の後で、講師2名による交渉結果のフィードバックを行います。

【パート3:継続的学習方法と企業での先進活用事例】
実際に行われている企業でのビジネス交渉力の育成プログラムや交渉学研究の活用事例をご紹介します。

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情報漏洩と人材流出

本日は、東京大学工学系究科技術経営戦略学専攻(TMI)の「企業価値と知的財産」の講義および演習にゲストTAとして参加しました。

秘密情報を知得した従業員が退職したときに、コンペティターへの転職等により秘密情報が漏れないようにするための方策を検討するというものです。

ベーシックなところでは、退職時に秘密保持契約を結ぶ、退職後に競合他社への転職や競合プロジェクトの担当になることを制限すること(競業避止義務)を果たすというものがありますが、それらの制限は「合理的範囲」に制限されることに留意する必要があります。
また、不正競争防止法違反(営業秘密の不正利用)を論拠とする差止請求もあります。これも営業秘密を管理していてこそ成立します。
仮に情報漏洩があった場合には、秘密保持義務違反の債務不履行よりも、不正競争防止法違反の違法行為で訴える方が、差止請求が認められやすいそうです。

本日の議論では、上記はもとより、知財法務に凝り固まった頭からは生まれないようなクリエイティブな発想(ネタバレ防止のためにここには書きません)が学生の皆様から出てきました。さすが日本の最高学府(ただし、留学生比率高し)です。

しかし、人材流出による情報漏洩に対して経営者にできる最高の防止措置は、人材流出が起こらない程の忠誠心が従業員に根付くような経営を継続することなのではないでしょうか。尤も、業種によっては転職によってしかキャリアアップできないこともあり、日本の企業すべてに望むのは酷な話だとは思いますが。

 

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アンドロイドシティ八王子の未来は?

「首都圏情報産業特区・八王子」構想推進協議会(サイバーシルクロード八王子)設立10周年記念講演会
「Android City八王子」を目指して
-ITを活かした新たな産業振興への取り組み-
http://www.cyber-silkroad.jp/2011/10/14/decadekouen/

昨日、標記の講演会と懇親会に参加してきました。
Google社のOS「Android」を活用して八王子市の企業力を強化しよう!という趣旨で、ゲストスピーカとして、元グーグルジャパン社長の村上憲郎氏、米国ベンチャーキャピタルパートナーの校條浩氏、東京工科大学教授の田胡和哉氏、そしてOESF代表理事の三浦雅孝氏が登壇しました。

スピーカの皆様の紹介するオープンイノベーションの「光」の面に、参加された皆さんは大いに勇気付けられたのではないかと思います。オープンソース、フリーライセンスのアンドロイドをプラットフォームとする「エコシステム*」には、いろんなビジネスチャンスが秘められているのは間違いありません。

*直訳すると「生態系」。欧米企業がよく使用する。キー技術とそれを取り巻くアプリケーションが連動して、ビジネスモデルやバリューチェーンが完結している状態と筆者は解釈しています。

しかし、「影」の面に目を向けると、グーグルと大陸系企業の策略にまんまと嵌められているのではないかと勘繰ってしまいます。
たとえば、オープンイノベーションを馬鹿正直に信じてアイデアを発表したはいいが、実際にビジネスにしたのは、それを聞きつけて人海戦術でコーディングした大企業、なんてことも起こりかねません。
技術をオープンにすることが活性化に繋がるのは確かでしょうが、コア技術まで明かしてしまうと、丸裸にされて捨てられるだけです。お気を付けあれ!

オープンの精神に逆行していることは百も承知ですが、各社がお持ちの「コア技術」は安易に明かさないことが、事業で勝つための知財戦略です。公表するのは、少なくとも特許出願を終えてから、というのが私の切なる願いです(その際には、是非当社にご相談を!)。

アンドロイドマーケットの胴元であるグーグル社のコア技術は、検索エンジンとそれに連動した広告提供、そしてマーケティング情報の解析技術にあるのは間違いないでしょう。さすれば、グーグルサイトへと繋がる携帯電話のプラットフォームなど、全部オープンにしても痛くも痒くもないのです。アプリに事業競争力の源泉を頼る企業は、そんなものに釣られて踊らされてはなりません。

アンドロイドで継続的な事業の成長をお考えの方は、ご自身のコア技術を十分に認識した上で、オープンにするところと、クローズにするところを、しっかり切り分けるようにすることです。
グーグルに隷属するのではなく、いつか対等に張り合ってやろうという気概を持って。

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